公益社団法人空気調和・衛生工学会 住宅設備委員会
住宅設備のBIM活用検討小委員会
委員会成果報告書 住宅設備のBIM活用検討
第3章 住宅設備でのBIM活用ガイドラインのあり方
- 3.2 業務モデル
- 3.2.2 BIMデータの工程間における取扱い方
- 設計作業を行うに当たり、資機材情報やBIM素材データの取得や設計情報の共有など各工程間において様々なデータの遣り取りがあるが、BIMによる業務は、その情報を高度かつシームレスに行われることが求められることから、当ガイドラインにおいて工程間で行われるデータ交換を具体的に示す必要がある。
- (1)資機材製造者(メーカー)との情報・BIMデータ収集及び問合せ
- 従来の設計手法や実務環境で資機材の選定をする場合には、カタログを取り寄せる、メーカー担当者に問い合わせる、又はメーカーのサイトを検索などによって情報を得て行われる。BIMの実務においては、BIMソフト側とメーカーが配信する資機材情報の書式の統一が取れて、情報技術の環境に直接接続しBIMソフトファイル内に直接仕様や3Dモデルデータを取り込める環境が理想である。そのために、下記項目についてデータ構造を標準化し、シームレスな情報共有が行える環境を整えることが必要となる。
- a.資機材情報入手とメーカー広告・カタログ・技術資料検索
- 現在、設備設計の過程において、資機材情報が必要になる段階では、各対象メーカーが広告や技術資料の形で公開しているカタログ閲覧やWebサイトの広告・カタログや技術資料ページを検索することで行われている。BIM実務においては、更に、BIMソフト上から、直接、条件に合った複数の資機材情報を比較検討しながら選定ができることが実務の生産性の向上につながる。この場合には、日本全国で通用するコード体系が必要となる。
- b.BIM素材データ問合せ
- BIMによる設計実務は、BIM素材をBIMソフト内の空間に配置することによって行わるため、各種資機材においてBIM素材データが用意されていることが必要となる。
- c.BIM素材データ配信
- BIM素材には、メーカーに依存しない標準データ型とメーカーの商品を素材化した個別データ型がある。BIM設計においては、設計過程において対象設備の付加処理能力を処理できる性能の資機材をBIMソフト内のBIMモデルを使用するか、ネットワーク上から標準データ型のBIM素材モデルデータを取得してBIMソフト上に配置する。資機材を繋げる搬送系の資材は、専門BIMの専用機能によって配置する。指定メーカーが決定された後は、メーカーが製造した製品BIM個別モデルデータを使い、施工、維持管理上の業務に活かす。
- d.合い見積もり問合せ
- 採用する資機材の選定においては、必要に応じて設計、施工、維持管理業務上コストを検討することが必要となる。また、資産評価や事業計画の観点からライフサイクルにおけるコストの検討・監理に対応することが可能となる。
- e.施工・維持管理に関わる詳細情報
- 施工において選定された資機材の仕様確認や納まり検討が必要となる。また、維持管理においては、管理対象の資機材の修繕や更新など保守業務に必要な情報が必要となり、BIM素材の様々な詳細情報を外部データベースシステムにデータを保存、再使用が出来れば有効な機能といえる。
- (2)設計事業者工程間情報共有
- ここでいう設計事業者とは、設計を依頼する事業者或いは個人と設計業務を行う各事業者を指し、設計工程上の情報共有についてのガイドラインを示す。
- a.施主への設計プレゼンテーション
- BIMによる設計環境には、クライアントへの設計内容の理解を深める様々なプレゼンテーション機能が有る。もともとBIMモデルは3Dデータであり、目的に合わせて様々なレンダリングが可能であり、VRによって3Dの体験型プレゼンテーションも可能である。設備に関しては、納まり・設備機器メンテナンス空間の検討、それぞれの機器・器具やキッチン、水回りのプレゼンテーションなどに利用できる。特に従来のショールームでは、代表的な設備資機材を対象とすることが多いが、VRを使用し、施主に様々な資機材やその組み合わせを紹介できると同時に、隠ぺい部の構造、トラブル発生時の対応などデザイン的なものや使い勝手に加え技術的な知識や対応を示すことが可能であり、その趣旨に沿ったBIMモデルの作成が必要となる。
- b.施主との設計情報共有
- BIMによる業務は、インターネット環境、特にクラウド環境を活用したデータベースシステムやファイル共有システムを利用することにより、設計情報を施主と随時情報共有する仕組みを構築することが可能であるため、施主の求める情報共有項目を選定し、その判断基準を施主と協議を行い表示する環境を構築する必要がある。
- c.施主事業販売促進工程データ交換
- 設計対象住宅物件が、賃貸或いは分譲など施主の事業対象となる場合には、VRなどに展開することにより、施主事業の販売促進活用することが可能である。設備の場合には、外観のみではなく、住宅設備の開設にも利用可能でありその目的に合ったBIM3Dモデルを作成し、施主が物件購入者、或いは賃借人へのプレゼンテーション用に活用するための販売促進システムとのデータ交換ができるものとする。
- d.設計メンバー間情報共有・データ交換、共同作業
- BIMによる設計現場の各メンバー間においては様々な共同作業が行われる。共同作業とは、複数のメンバーによって行われるが、そのメンバー間において円滑な情報交換、データ交換が行われる必要があり、それには次のパターンが有る。
- 一つの設計対象に複数のメンバーが参画する場合。
- 一つの設計対象がタイプ別、棟別など複数のエリアに分かれる場合。
- 一つの物件における設計情報やBIM素材取得のためのメーカーと連携する場合。
- 本ガイドラインにおいては、これらのパターンに対応したデータ交換・情報共有のために、以下の項目についてのプロトコールを設定する。
- 全設計対象のファイルにおいて、座標系などで位置関係・空間情報の統一を行う。
- 資機材情報の仕様に係る書式やモデル表示形状を統一する。
- オブジェクト区分に対する表示書式を統一する。
- データ交換・情報共有のルートを統一する。
- 各BIMファイルを統合された参照基準を統一する。
- 上記に関する共通プロトコールをテンプレート化して、全てのメンバーへ配布するし統一を図る必要がある。
- e.設計分野別事業者間情報共有・データ交換、共同作業
- BIMによる設計は、従来の2D図面による設計図書作成とことなり、一つの物件における建築物に、設備資機材の施工と建築意匠や構造など他部門間との高い整合性が求められる。従って、他分野との共同作業も同様に統一プロトコールを作る必要性が生ずるが、多くの場合、それぞれの分野で専用機能が異なることが多く、設備設計の場合には海外の事情と異なる国内設備設計業務現状が有り、設備専用BIMソフトが普及所いている4ため、他分野とBIMソフトを統一することが困難な場合が多いため、次の以下の項目について統一のプロトコールを定める必要がある。
- 座標系による各設計要素の位置関係の統一
- スペース空間定義・呼称の統一
- IFCモデル及びカスタムプロパティの統一
- f.3Dスキャナーによる既設施設の更新
- 既存施設の改修・更新の場合には、従来、人間の目による現場調査が主体であるが、BIMモデルは3D空間をベースとするため、現在、レーザー3Dスキャナーによる調査の普及が進んでいることから、既存図面から3Dモデルを作成するよりも現状の状況に対して正確なモデル作成が可能であるため、3Dスキャナー調査が現場調査の方法として推薦される。
- (3)設計-施工工程
- 現在、BIMソフトによる設計工程と施工工程とのつながりは、2D図面を基にした従来の実務の現状から。BIMソフトの使用は、その専用機能用いて2D図面の作成における生産性高めることに主眼が置かれ、BIMモデルにおける様々な情報共有やデータ交換は、設計の後工程である施工工程に対して円滑に行われているとは言い難い。従って、各物件において統一的な規約を定めることは有益であるため、後工程としての施工工程への情報共有・データ交換のためのプロトコールが必要となる。
- a.座標系、空間情報、3Dデータ活用
- 現在、設計情報の位置関係は、2D図面による設計図書によるため、文字情報や線情報による通り芯や外構・棟・室名と、GLや階などの高さ情報によるが、BIMモデルは空間情報を持つ3Dモデルの配置によるため、設計、施工において共通の空間情報持つ必要がある。自動運転が現実味を帯び、施工ロボットも出現してきた現在、共通空間情報を持つ3Dモデルは、将来的に施工ロボットなどによる自動施工が近い将来可能となり、その分野への対応も視野に入れる必要がある。また、施主に引渡した後工程である保守管理工程から、シームレスにデータを参照できる仕組みが、企画から維持管理に渡る業務の生産性向上を図ることに繋がる。
- b.システム系統情報
- 設備システムの配管工事やダクト工事において、搬送系の系統は重要な情報であり、その情報をオブジェクト区分された3DモデルでのBIM設計情報の提供は、現場の施工を行う上で重要なプロセスである。従って、設計事業者と施工事業者間との情報共有・データ交換プロトコールを設定する必要が有る。特に施主がデベロッパーなど監理事業者である場合には、維持管理工程にも影響がありその能力も有ることから、施主の管理の元、維持還業務への影響も考慮してプロトコールを物件共通、或いは事業者共通の規約として設定されることが望ましい。また、BIMによる設計、施工のデータ、特に自動制御情報は、中央監視システム、エネルギー管理システムとの親和性が高いことが重要である。
- c.資機材仕様情報
- 設計工程においては、資機材情報は仕様・性能やコストを示すものであり、具体的な型番は参考情報である。実際に現場へ納入される資機材は、施工事業者と施主により選定され、設計部門は承認することのみであるが、設計情報がBIMによる情報共有により正確伝わることにより施工工程、その後工程である維持管理工程でも重要な情報となる。また、積算・見積を効率よく行うことが可能となり、企画から入札、発注、維持管理まで建築物のライフサイクルに渡って迅速でより正確なコスト管理ができる。現在、情報共有の仕組みとしては、ファイル単位で行われることが常であるが、外部データベースを介して行われる仕組みを構築することも技術的には可能であり、物件全体の情報共有の効率化が可能である。
- (4)設計-維持管理工程
- 維持管理において、施工時に設置された機器・器具の実機情報や搬送系の系統の情報は、設計情報、施工情報をトレースできることが重要となるが、従来は、前工程の情報を維持管理システムへ転記する手法が主流であるが、BIMによる業務を行う場合には、単に設計工程、施工工程の情報をデータ交換するだけではなく、外部データベースにより情報共有を行い、維持管理システムにおいて再利用を行うことにより、設計・施工情報のトレーサビリティーの円滑化可能であり、維持管理工程での有効活用ができる。この仕組みを構築するには、インターネットやクラウド環境を活用した、BIMファイルの統合的なBIM業務管理システムが必要となる。
- a.維持管理対象資機材仕様・位置情報
- 維持管理業務においては、どの様な仕様の資機材が、どの位置に施工されているかという情報が重要である。設計、施工におけるBIM空間の情報を維持管理へシームレスにアクセスできる仕組みや規約を設計計画当初から決める必要がある。
- b.システム系統運用情報
- 建築設備の維持管理においては、特にトラブル発生時に対応するためには、系統を把握することは重要な情報となる。BIMによる設計は、系統の把握を様々の表現でオブジェクト区分することが可能であり、BIMソフトを維持管理業務活かすルール作りが必要になる。
- c.設備修繕・更新計画情報
- 高度なBIMソフトでは、BIM空間上の様々な資機材情報に対して仕様データを外部データベースから取得し、また、BIM空間上の情報を保存することが可能である。この外部データベース情報を維持管理システムのデータベースと連携できれば、台帳の作成や保守管理履歴の作成する際に直接の利用が可能であり、BIMソフトを維持管理業務活かすルール作りが必要になる。